基本事項:子宮内膜症ってどういう病気ですか? |
1.月経のメカニズム
2.子宮内膜症の病態
3.子宮内膜症の診断
4.子宮内膜症の治療
1)手術療法
2)薬物療法
a)擬妊娠療法
b)擬閉経療法
子宮内膜症という病気は、一言でいうと「子宮の内腔以外の場所にも子宮内膜が生育している病気」といえます。子宮内膜は本来自分の身体の中(=子宮の内腔)に存在するものですが、あるべき場所ではないところにもそれが認められるような病気である、ということです。 病気の根本は、実は単純にそれだけのことなのです。 しかし、このことが原因となって身体に現れる症状は意外に多岐に渡るものであり、しかもその症状の中心にあるのは「痛み」である(生理痛、性交痛など)という点が最も問題になる点であるといえるでしょう。 また、後述しますが、子宮内膜症は不妊症の原因にもなりうるという点も、大きな問題点の一つと言えるものです。 それではこれから子宮内膜症についてのお話を進めていきましょう。 |
1.月経のメカニズム 下のイラストをまずご覧ください。 |
まず、月経が終了する頃から排卵が起こるまでの期間(=卵胞期)に、左右どちらかの卵巣で通常、一つだけ卵胞が発育し始めます。卵胞が発育してくると、卵胞を形成している卵胞細胞から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)の量も次第に増量していくようになります。この卵胞ホルモンの影響によって子宮内膜は徐々に増殖し、その厚みを増して行くようになります。 (*妊娠が成立した場合のホルモンの状態はこちらに詳細が記載してあります。また、月経周期におけるホルモン量の変化はこちらを参考にしてください ) |
2.子宮内膜症の病態 さて、最初にお話ししましたように子宮内膜症というのは「子宮内腔以外の場所に子宮内膜が生育している病気」ですから、身体のどこかに子宮内膜が生育している場所があることになります。すると、その場所でも子宮内腔で起こるのと同様に、毎月内膜が増殖と剥離出血を繰り返すことになります。 |
毎月月経期になると子宮内膜症が存在する場所でも内膜の剥離・出血があるということは、その場所でいわば内出血を起こすようなものですから当然それが痛みとして感じられることになります。子宮周辺あるいは子宮筋層内に内膜があれば、場合によって激痛を伴うような月経痛(生理痛)にもなりうるということになりますし、腹膜にあれば腹膜を刺激することで下腹部の痛みの他にも吐き気として、ダグラス窩にあれば肛門の方への痛みとして、膀胱子宮窩にあれば尿意を催した時の下腹部の痛みとして感じることになります。 |
また、子宮内膜症病変が子宮の筋層内に限局して発生する場合は、特に子宮腺筋症と呼ばれます。 症状としては、子宮筋腫に良く似て月経痛、月経過多などが主体となり、しかも子宮全体が大きくなることも筋腫と共通しているため、病気としては子宮筋腫に準じて考えた方が良いものです。 子宮腺筋症についてはこちらを参照してください。 |
3.子宮内膜症の診断 子宮内膜症の診断には、以下の二通りの方法があります。 以上のことから、もしみなさんが産婦人科を受診して「子宮内膜症です」との診断を受けたとしても、その正診率はだいたい75%、つまり4人のうち1人は内膜症ではないのに内膜症だと診断される可能性があるものなんだと理解をしておくと良いものと思います。 なお、一般的に子宮内膜症の程度を表すために用いられている分類には、Beecham分類と米国不妊学会の修正分類(Revised American
Fertility Society Classification;Re-AFS分類)の二種類があり、前者は内診所見を中心とした臨床的分類、後者は腹腔鏡所見を中心とした分類と考えて良いでしょう。今までは主として前者の分類が、その簡便さと内診所見中心で良いという点が受けて広く用いられてきましたが、Beecham分類が必ずしも子宮内膜症の病状を反映していないこと、また治療効果の判定の指標として用いるのには必ずしも適格なのではないということが、腹腔鏡による所見との比較からわかってきています。 なお、腹腔鏡に関してはこちらに詳細があります。 |
4.子宮内膜症の治療 子宮内膜症の治療には、大きく分けると
|
1)手術療法 手術療法に関して言えば、直接病変の除去ができる、病状を目で見て把握できるなどの利点があるのに対して、手術操作による癒着を起こす可能性がある、入院が必要となる、術創ができる、などの欠点も持ち合わせています。
しかし、手術を必要とするかどうかの判断はなかなか難しいものです。 さらに開腹手術を行う場合にも、子宮腺筋症の程度がひどい場合は子宮を全摘(膣上部子宮切除術を含む)するべきかどうか、卵巣にチョコレート嚢胞がある場合には卵巣を全摘(片側のみ、あるいは両側とも)するべきか、もしくはチョコレート嚢胞のみを摘出するかどうか、卵管に癒着がある場合にはこれを摘出するか、あるいは顕微鏡的に開通させる手術(卵管形成術など)を施すべきかどうかなど、種々の選択すべき問題点が山積しています。 子宮内膜症という病気は各個人でかなり病状が異なっているのが普通で、その治療としての手術方法も「このような手術をするのが正しい」という基準はないものと思って良く、したがって何を目的としてどういう手術法を選択するかという点について、事前に医師と良く相談しておくことは非常に大切なことなのです。
|
2)薬物療法 手術を必要としないとの判断であれば、2.の薬物療法のみで対処することになります。 |
a)擬妊娠療法
|
b)擬閉経療法
|
擬閉経療法に用いる薬剤としては、内服薬、注射薬、そして経鼻スプレーの三種類があります。それぞれの利点&欠点は以下の通りです。 |
内服 | ボンゾール、ダイナゾール、バキサール、オイスロンなど |
通常1回1〜2カプセル、1日2〜3回 |
|
利点: | 内服なので負担が少ない、量を調節できる、他の薬剤に比べると更年期様症状が少ない | ||
欠点: | 副作用(体重増加、にきび、肝機能障害、血栓症など)が他の薬剤と比べて多少多い、服用中に不正出血することが多剤に比べて多い | ||
注射 | リュープリン、スプレキュア |
通常月に1回、皮下注射 | |
利点: | 月に一度の注射なので通院が容易、定期投与で確実なエストロゲン抑制効果があり、最も治癒効果が期待できる、飲み忘れなどがない | ||
欠点: | 途中で量を調節できない、注射なので針を刺す負担がある、更年期様の症状が最も強く出やすい、性欲が減退しやすい、値段が高い | ||
経鼻薬 | スプレキュア、ナサニール、ブセレキュアなど |
通常1回1〜2噴霧を片鼻または両鼻へ、1日2〜3回 | |
利点: | 内服ではないため胃を荒らさない、量を調節可能、副作用が比較的少ない(ただし更年期様の症状は内服より強い) | ||
欠点: | 鼻が悪いと使用できない(花粉症、風邪など)、使用時に咽頭へ流れるという不快感がある |
さて、各薬剤にも少し記載が出てきましたが、いずれの薬においてもエストロゲンレベルが低下することに起因する更年期様の症状が発生する可能性があります。このことに関しては、別のページに詳細を記載してありますので、そちらをご覧になって下さい。(→「子宮内膜症治療中のおかしな症状について」) 以上が、子宮内膜症という疾患の概要になります。 |
■関連リンク タンポンを使用すると子宮内膜症になりやすい?
子宮内膜症の人は不妊症になりやすい?
子宮内膜症は再発しやすいのですか?
子宮内膜症治療中の様々な症状について
(擬妊娠療法と擬閉経療法の詳細とそれによる症状について)
CA125ってなんですか?
チョコレート嚢腫ってなんですか?
腹腔鏡について教えてください