レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

2.妊娠初期ですが、卵巣が腫れていると言われました

 

 

 妊娠と同時に卵巣が腫れていると言われた場合には、2通りの可能性が考えられます。一つは腫瘍性のもの...いわゆる卵巣嚢腫の場合であり、もう一つはルテイン嚢胞と呼ばれる妊娠性に腫れるものの場合です。
 腫瘍性のもの(あるいはそれ以外のもの)についてはこちらの記述を参考にしてもらうとして、 ここではそのうちのルテイン嚢胞についてをお話いたします。

 妊娠すると、将来胎盤を形成するようになる絨毛という組織からHCGというホルモンが放出されるようになります。このホルモンは妊娠時以外には出現せず、妊娠して初めて現れて来ます。妊娠反応検査は、尿中に排泄されるこのホルモンを検出して妊娠と診断するように作られているものです。妊娠初期にこのホルモンが大量に分泌されるためつわりが起こるのだとも言われています。
 さて、このHCGというホルモンの本来の働きですが、これは、「排卵後に卵巣に形成されている黄体を刺激して、黄体が自然退縮してしまわないようにすること」です。
 黄体は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とともにプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌していますが、これらのホルモンは子宮内膜に働きかけて受精卵が発育していくのに適した環境を形作る働きを持っています。しかし黄体は、通常排卵してから約2週間ほど経つと自然に退縮してしまうため、この結果エストロゲン、プロゲステロンの分泌は急激に減少し、このホルモンの働きによって厚さを保っていた子宮内膜も剥がれ落ちることとなって子宮内へ出血し始めます。これが生理ですね。
 したがって妊娠が成立した場合、受精卵側としては黄体に退縮してもらっては困るわけで、黄体に退縮しないようにシグナルを送らなければなりません。「妊娠しているので、続けてエストロゲンとプロゲステロンを出して下さい。そうでなきゃわたし、流れてしまいます。」というシグナルですね。
 このようにしてHCGを放出することによって、妊娠が維持されるようになっていくわけで、このような妊娠の維持の仕方は胎盤が完成する妊娠12〜16週頃まで続けられていきます。いわゆる、「妊娠がまだ不安定である期間」というのは、この期間のことを指すわけです。

 

       

 ところが、このHCGというホルモン、黄体を刺激して退縮しないように働いてくれるだけなら良いのですが、時に黄体を刺激しすぎるあまり、黄体に水分を蓄積させて嚢胞を形成してしまうことがあります。これが、黄体嚢胞(ルテイン嚢胞)と呼ばれるものです。
 HCGの過剰刺激による嚢胞形成ですから、HCGが減少するのに伴って嚢胞も縮小してきますが、あまりに大きくなるとこれも時に茎捻転を起こしてしまい、手術を必要とする場合もあり得ます。
 しかし先にも述べたように、胎盤が形成されて胎盤からエストロゲン、プロゲステロンが放出されるようになれば、黄体を刺激し続ける必要がなくなってきますので、それに合わせてHCGも減少してくるようになります。このピークがおよそ妊娠8〜10週に相当するため、ルテイン嚢胞が大きくなっていく心配があるのもこの頃まで、ということになります。

 

       

 ねじれて痛みが起こらない限りは自然に退縮するものですから、経過を見ていれば良いものですが、万が一かなりひどい痛みが起こってしまった場合には、残念ながら手術する必要があるかもしれないと覚悟をして、病院を受診しましょう。