1999年9月から、日本でも低用量ピルが認可を受けて発売されるようになりました。
今まで日本で用いられてきたピルは中・高容量ピルでしたが、これに比べて低用量ピルのホルモン量(エストロゲン、プロゲステロン)は半分以下にまで軽減されています。
避妊に対してほぼ100%に近い効果を示すばかりではなく、月経困難症、月経過多、月経不順などに対しても有効であるのは中・高容量ピルと同じですが、ホルモン剤服用に起因する副作用症状は、低用量化によりかなり軽減されています。(ピルの副作用についてを参照)
ただし、低用量化によって不正出血を起こしたり生理がごく少量になったり、あるいは飲み忘れによる妊娠率の増加が起こったりということがあることは否めません。
*種類ーーー
現在発売されている低用量ピルには、一相性、二相性、三相性の三種類の製剤があります。
それぞれの製剤の違いは、一周期におけるホルモン量の変化のつけ方にあり、一相性ピルは服用中のホルモン量は常に一定としたもの(今までの中・高容量ピルと同様の用法)、二相性ピルは排卵を境にして卵胞期と黄体期でホルモン量に変化をつけたもの、三相性ピルは、二相性ピルのホルモン量変化に加えて排卵期のホルモン量を考慮して変化をつけたものとなっています。
一相性では不正出血は少ないものの悪心・嘔吐などの副作用が出現しやすく、また三相性では副作用症状は少ないが不正出血が起こりやすく、また飲み忘れに対しての対処が面倒である、などの特徴があり、二相性はその中間的性質を持ったものと言えます。
*服用方法ーーー
21日間服用のものと28日間服用のものとがあります。
簡単に言うと、21日間服用のものにプラスしてプラセボ錠(ホルモンの入っていない薬)を7日間服用するようにしたものが28日間服用するタイプのものです。
21日間服用のものでは、服用を終えると7日間休薬してその間に生理を迎え、休薬を終えたらまた新しいシートの錠剤を服用するという服用方法をとりますが、この休薬期間を置くことで次のシートの薬を飲み始めるのを忘れないようにするためにプラセボ錠を服用しておくのが28日間服用タイプのものと言うわけです。
通常、どちらの場合でも月経が開始した日から服用を開始します。
また、サンデー・ピル(Sunday pill)と呼ばれるものがあり、これは月経が開始してから初めて迎える日曜日から服用を開始するもので、さらに飲み忘れをなくすように服用方法を工夫したものです。このタイプでは、最初の周期には避妊効果が落ちるため他の避妊方法を併用する必要があります。
いずれのタイプのものでも、1ヶ月分を1シートにコンパクトにまとめたものとして製品化されており、携帯を考慮してシートを入れる容器も各社で工夫されています。
服用は一日一錠、なるべく同じ時間に服用するようにします。
服用する時間は自分で決めてかまいませんが、なるべく飲み忘れない時間を選ぶように(例えば毎就寝前など)して下さい。
*服用してはいけない人は?ーーー
・以前に経口避妊薬で過敏症をおこしたことのある人
・子宮体癌、子宮筋腫、乳癌などのエストロゲン依存性腫瘍、子宮頸癌を罹患している人、及びその疑いのある人
・原因不明の不正出血のある人
・血栓性静脈炎、肺塞栓症、脳血管障害、冠動脈疾患にかかっている人、またはその既往歴のある人
・35歳以上で1日15本以上喫煙する人
・血栓性素因のある人
・抗リン脂質抗体症候群の人(こちらを参照)
・4週間後に手術を予定している人、手術後2週間以内の人、産後4週間以内の人、および長期間安静状態にある人
・重症の肝障害のある人
・肝腫瘍のある人
・脂質代謝異常のある人
・高血圧のある人
・耳硬化症のある人
・妊娠中に黄疸、持続的なかゆみまたは妊娠ヘルペスの症状が現れたことのある人
・妊娠または妊娠している可能性のある人
・授乳中の人
・思春期前の人
●喫煙
ピルを服用しながら喫煙することにより、静脈血栓症、肺塞栓症、心筋梗塞、脳卒中が起こる危険性が高くなるといわれています。
●血栓性素因
生まれつき血栓が生じやすい体質の人。
または、糖尿病、高脂血症、重症感染症にかかっている人、もしくは血液凝固因子製剤の投与を受けている人を指します。
●抗リン脂質抗体症候群
人の身体の一構成成分であるリン脂質に対して、自分自身で抗体を産生してしまう病気です。いわゆる自己免疫疾患の一つです。この結果血液が固まりやすくなり血管内で凝固を起こし血栓症を招きやすくなります。習慣性流産、動静脈血栓症、血小板減少症などを合併しやすいと言われています。
●脂質代謝異常
糖尿病、高脂血症など脂質代謝に異常を認める場合、ピルの服用によって血栓症を起こしやすくなること、それによる心筋梗塞や脳卒中の起こる危険性が高くなることが報告されています。
*副作用に関して、「これは危険かも?」という徴候についてーーー
主なものを挙げると、以下のようになります。
・ふくらはぎの痛み・むくみ、手足のしびれ
・鋭い胸の痛み、突然の息切れ
・胸部の押しつぶされるような痛み
・激しい津痛、めまい、失神、視覚&言語障害(目のかすみや舌のもつれ)
いずれも、血栓症、心筋梗塞、脳卒中などの前駆症状といえるような症状です。
これらの症状が現れたら薬の服用を中止して直ちに医師に相談をして下さい。
*飲み忘れと妊娠の可能性についてーーー
1回だけ飲み忘れた場合では妊娠する可能性はほとんどありませんが、飲み忘れた回数が多くなるほど妊娠する可能性は高くなります。もしも妊娠してしまった上にピルの服用を続けてしまっていた場合でも、ごく初期であれば胎児への影響はまずありません。しかし妊娠が判明してからはなるべくピルは服用しないようにして下さい。
続けて服用してきて1日だけ飲み忘れてしまった場合は、飲み忘れた1錠を直ちに服用して、そのあとの分を通常通りに服用すれば良いでしょう。2日以上続けて飲み忘れてしまった場合には、残っている錠剤は服用せずに中止して下さい。そのあとにまたピルを服用する時には、次の生理が来るのを待ってから服用を開始して下さい。
*その他の注意点ーーー
●不正出血
ピル服用中に不正出血を見ることがあります。
しかし、正しく服用している限りはこのような出血は心配要りませんし、またピルの効果が落ちている訳ではありませんので途中で服用を中止せずに続けて下さい。このような出血は服用を続けていけば2〜3ヶ月で起こらなくなりますが、その後も断続的に出血が起こるようであれば、服用を中止して医師にその旨をお話しして下さい。
●妊娠を希望する場合
ピルの服用を中止すると、自然に生理が来るようになります。
できれば基礎体温を計測して、通常の月経周期に戻ったことを確認してから妊娠に臨んだ方が良いでしょう。長期間ピルを服用してきた場合には正常の周期に戻るまでに3〜4ヶ月ほどかかる場合もありますが、それ以上経過しても元の周期に戻らない場合には医師に相談して下さい。
なお、ピルの服用を中止してから月経が発来までの期間ですが、90%が90日以内に再来しているそうです。また、ピル服用中止後1年以内の妊娠率は80〜90%であり、一般夫婦の不妊症の割合が10%であることを考えればピル服用による影響はほとんどないと言えるでしょう。
●長期服用について
何も変化がなくとも、必ず半年に一回は検診を受けて下さい。
血液検査、尿検査、体重測定、血圧測定、婦人科的診察、乳房検診などです。
●乳ガンとの関連について
乳ガンはエストロゲンに依存して増悪すると言われています。
ピルにはエストロゲンが含まれていますから、一般的に考えて悪化する可能性があると言えるでしょう。欧米の研究グループによれば、ピルを服用している人が乳癌になる割合は人口10万人に対して42人であるそうで、ピルを服用していない人が乳癌になる割合(人口10万人に対して34人)よりも少し多いということです。
●体重増加、にきびの出現、むくみなどの副作用
中・高容量ピルではこのような副作用症状は比較的認められましたが、低用量ピルではかなり軽減されています。
代表的な副作用につき、その発現頻度を記しておきます。
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