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9.骨盤内腹膜炎ってどういう病気ですか?

 

 女性性器すなわち子宮・卵管・卵巣、あるいはその周囲にある組織(腹膜や結合組織)に起こる感染症を総称して骨盤内感染症(Pelvic inflammatory disease : PID)と呼びます。この中で、腹痛や発熱などの炎症症状が激烈で腹膜炎を併発していると考えられる場合、その炎症の範囲は大抵骨盤内に限局したものであることから骨盤内腹膜炎 Pelvic peritonitis と呼称されています。
 通常、入院治療を必要とすることが多く、通院治療(=内服のみで治療)ではなかなか症状が軽快しないことが多いようです。また、治療により症状が軽快してもその後に骨盤内に膿瘍を形成すること(膿みがたまること)も少なくはなく、そのため最終的に開腹手術を行うことになるケースもままあります。

 原因菌としては、ずっと以前は結核菌や淋菌によるものが多かったのに対し、近年では大腸菌類が最も多くなっていますが、特に最近はクラミジア感染が増加しているのに伴ってこれによるものが急増していること、また淋病によるものも微増傾向にあることも特筆すべき点でしょう。
 いずれにしろ、下のイラストのように病原菌は膣内から子宮を通り抜けて卵管、骨盤内へと侵入し、そこで炎症を起こすという病態には変わりありません。

 

 症状としては、発熱を伴う下腹部の強い痛みが主となります。おりものや不正出血などの特異的な変化を伴うことはあまりありませんが、原因菌により膣炎を伴っていたりホルモンバランスを崩していたりする場合にはこのような症状が見られることもあります。

 治療は抗生剤が主体となり、通常セフェム系、ペニシリン系、ペネム系、ニューキノロン系などの薬剤が使われます。先述のとおり最近はクラミジアによるものが増えてきていますが、ニューキノロン系の薬剤にはクラミジアに対しても有効なものがあるもののその他の抗生剤では無効なことから、マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスなど)やテトラサイクリン系(ビブラマイシンなど)の抗生剤を追加、併用したりもします。
 重症例、難治例ではこれらの薬剤でも無効なこともあり、カルバパネム系抗生剤や免疫グロブリン製剤(ガンマベニン、ベニロン等)を使用する場合もあります。さらに先述のように手術療法を選択する場合もありますが、これは通常急性期(炎症の状態がかなりひどい状態)には行うものではなく、炎症が落ち着いてきたものの膿瘍の形成や癒着などによる痛みを主とした症状が持続する場合に主として採択される方法です。

 膿瘍(abscess)は、主に卵管自体(卵管留膿腫;pyosalpinx といいます)あるいはその周囲、ダグラス窩(→ダグラス窩の場所はこちらで)などに形成されることが多く、ほとんどの場合周囲の組織(卵巣、卵管、腸、靱帯など)との癒着が認められます。卵管との癒着があったり卵管自体に膿瘍が形成された場合、卵管の通過性に障害をもたらす結果として不妊症や子宮外妊娠の原因となる懸念があるため、これから妊娠を考える方では特に問題となるものです。
 また、膿瘍の存在はそこを中心とした炎症の再燃が起こりやすく、何度も発熱・疼痛を繰り返すこともまれではありません。
 以上のようなことから、膿瘍形成が認められる症例では、外科手術の対象となるのが普通といえるでしょう。