レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

10.子宮外妊娠ついて教えて下さい

 

1.概要

 受精卵が、子宮内腔以外の場所に着床して発育することを子宮外妊娠と言います。
 全妊娠に対して占める割合はおよそ1%前後であるといわれ、発生頻度としては流産の約10分の1に相当します。初産比べて経産に多く(80%)、特に1回経産婦が最も多いことも特徴です。
 子宮外妊娠は、受精卵が着床する部位によって
  1)卵管妊娠 tubal pregnancy
  2)卵巣妊娠 ovarian pregnancy
  3)腹腔(腹膜)妊娠 abdominal pregnancy
 の3つに分類されますが(下のイラスト参照)、このうち98%を卵管妊娠が占め、残りの2%を卵巣妊娠と腹腔内妊娠が占めるという割合になっており、そのほとんどが卵管での妊娠であることがわかります。また、子宮腔内と子宮外の同時妊娠が起こるケースも珍しいながらも見られ、その頻度は妊娠約30,000件に1件と報告されています。ただし、不妊症治療として排卵誘発を行った場合の子宮内外同時妊娠の頻度は約1000分の1であるといわれていますから、排卵誘発時にはさほど珍しくはないと言えるかもしれません。
 最も頻度の高い卵管妊娠については、その発生する部位により
  1)間質部妊娠 interstitial pregnancy
  2)峡部妊娠 inthmian pregnancy
  3)膨大部妊娠 ampullar pregnancy
 の3つに分類されており、それぞれの頻度は2%、90%、8%と、圧倒的に卵管峡部に集中していることがわかります。

 さて、妊娠は精子と卵子が合体する、いわゆる受精という現象から始まりますが、この受精という現象は卵管内(卵管膨大部)で起こるものであることがわかっています。受精をした卵(受精卵)は、およそ1週間をかけて卵管内を移動し子宮の内腔へたどり着きますが、その間にどんどん細胞分裂を繰り返しながら発育していき、子宮の内腔へたどり着く頃になってようやく胎児を形成する部分(胎芽胚葉)と将来胎盤を形成する部分(栄養胚葉)とに分かれるようになり、そうなって初めて着床する能力を獲得できるようになります。
 このことを考えればなぜ卵管妊娠が最も多いのかを理解することができると思いますが、要するに、受精卵が着床能を獲得するようになってもまだ子宮内腔へたどりついていない場合に子宮外妊娠が起こると考えて良いわけですね。
 その原因としては、
 ・卵管上皮にある線毛の運動(受精卵を輸送する働きを持ちます)の異常
 ・卵管の通過性の障害
 などが考えられるわけで、このようなことは、クラミジアや淋病、あるいは妊娠中絶後などにより卵管自体あるいは卵管周囲に炎症が起こることが原因となる場合や、子宮内膜症による卵管周囲あるいは卵管を巻き込んでの癒着が生じた場合、卵管に憩室や発育不全、奇形などの異常が見られた場合などにより起こりうると考えられます。
 この他、受精した卵が一度卵管を飛び出して、対側の卵管から侵入すること(外遊走)が原因となる場合や、卵管から子宮内腔を経て対側の卵管内へ侵入すること(内遊走)が原因で起こる場合もあるとも言われています。
 いずれにしても、原因がはっきりしないケースもかなりの割合を占めるという事実を考えると、例えば卵管の通過性自体に問題があるような特殊な例を除いては、子宮外妊娠を事前に予防するということはきわめて困難なことであると考えておいた方が良いと言えるでしょう。

 

2.症状

 子宮外妊娠といっても妊娠に変わりはありませんから、自覚的症状としては通常の妊娠と何ら変わるところはありません。すなわち、生理が遅れていることに加えて胸が張ったり尿が近くなったりという症状に始まり、つわりが出てくるようになるという自覚徴候は全く同じである、ということですね。しいて挙げるとすれば、普通よりもつわりの症状が軽い場合が多いというのが特徴と言えるかもしれませんが、正常妊娠や流産でもつわりが軽い場合がありますから、これをもって子宮外妊娠と判断できるものではないということは間違いありません。
 ただし、卵管に妊娠した場合には、この場所でいつまでも発育し続けることは不可能ですから、いずれ限界に達するとその場所で流産し始まるか、または卵管が破裂することになります。それに伴う症状として、卵管流産tubal aboution の場合は腹痛と不正出血が、卵管破裂 tubal rupture の場合は腹腔内への出血量に応じた症状(少ない場合は卵管流産と同様の症状、多くなるほど腹痛が激烈となり、ひどければショック状態に陥るようになります)が現れてくることになります。特に卵管破裂の場合は数時間の間に腹腔内へ2000〜3000mlもの出血を来すこともあり、したがって輸血を必要とすることもしばしばで、放置すれば当然死に至る可能性があるものです。
 どのくらいの妊娠週数になると流産したり破裂したりするのか?が気になるかもしれませんが、妊娠週数と卵管流産・卵管破裂が起こる時期との間には相関関係はなく、早い時期に破裂に至る場合もあれば4ヶ月以降まで流産徴候もなく発育する場合もあり、一概には言えません。
 


3.診断

 さて、子宮外妊娠の診断ですが、これがなかなか困難な場合が往々にしてあり、しばしば産婦人科医の頭を悩ませます。卵管破裂を起こして急激に全身状態が悪化すれば診断は容易となりますが、破裂が小規模で腹腔内への出血が緩やかに起こっている場合、卵管流産の場合、あるいはそのどちらも起こしていない場合などではなかなか診断が困難になります。
 単純に考えれば、
  1)妊娠している証拠を掴み、
  2)子宮の中に妊娠していないこと、もしくは子宮の外に妊娠していることを確認する
 だけで良いように思いますが、実際にはそう簡単にはいかない場合がかなり多く存在するのです。

 1)については、尿検査で比較的容易に妊娠を判断することはできるので問題にはなりませんね。
 問題なのは2)です。
 妊娠している場所を確認するのに最も適した方法は経膣式超音波検査となりますが、実は子宮外妊娠の場合これが想像以上にやっかいなのです。
 まず、「子宮の中に妊娠していないこと」の確認に関してですが、これは超音波検査で子宮の中に「妊娠しているなら見えるはずのものが見えない」のであれば、それは子宮外妊娠じゃないか、と普通は思いますよね? 確かに、「妊娠反応が出ているのに子宮の中に妊娠しているなら見えるはずのものが見えない」ことが、医者が「もしかすると子宮外妊娠か?」という疑いを持つ第一歩となる所見なのですが・・・
 しかし、胎嚢(GS ; Gestational Sac : 胎児が入っている袋)が子宮内に見えないことを確認すれば子宮外妊娠と診断しても良いように思えるかもしれませんが、例えば排卵の時期が遅れたために子宮の中に妊娠していてもまだGSが確認できない時期にあるという場合(生理不順の人には頻繁にあり得るケースです)、あるいは子宮の中に妊娠してはいるがほとんど発育していないためにGSが確認できないという場合(=ごく初期での流産の場合)などでは、「子宮の中に妊娠していてもGSが確認できない」という事態が起こり得るのです。つまり、「子宮内にGSが確認できない」という所見だけでは子宮外妊娠とは判断できない、ということになるわけです。
 また逆に、もしGSが見えたとしても、実はそれがGSではなくてArias-Stella signによるものであるということもあるため、子宮内にGSが確認できるからといって絶対に子宮外妊娠ではないとも言い切れない、という事実があります。
 Arias-Stella sign というのは、子宮外に妊娠した組織からのホルモン分泌(HCG ; Human Chorionic Gonadotropin)によって、子宮内膜に脱落膜変化(子宮の内膜組織が妊娠の維持に向けて変化することをこう呼びます)が起こることをいい、それによって子宮の中にあたかも妊娠しているかのように、GSのようなものが確認されることが往々にしてあるのです。(下の写真を参照)
 以上のような理由から、「子宮の中に妊娠していないこと」を確認することは想像するよりはるかに難しいことであると言えるのです。
 では、子宮の外に妊娠していることを確認することについてはどうでしょうか?
 これも、卵管が通常超音波では描出されないこと、卵管周囲には腸管があるために子宮外妊娠部分が存在してもなかなかはっきりとは見えないこと、ある程度以上の大きさにならないと描出されにくいことなどの理由により、むしろ子宮の中に妊娠していないことを確認すること以上に難しいことと言えるのです。

 

 上の写真は、経膣式超音波による典型的な子宮外妊娠の像を示したものです。このように超音波ではっきりと子宮外妊娠を診断できるケースというのはどちらかというと稀な方であると言えますが、一応参考として掲載しておきます。
 この写真では、右上Aの部分に卵管内に胎嚢(GS ; Gestational Sac)が確認され、さらにGSの中にリング状の卵黄嚢(YS ; Yolk Sac)が確認されますので、この所見だけでも子宮外妊娠と判断できます。
 さらにその周囲には低エコー(hypoechoic)の 部分が認められますが(Bの部分)、これは腹腔内へ出血が起こっている所見であり、卵管流産もしくは卵管破裂によって腹腔内へ出血が起こっているものと考えられる所見になります。
 また、子宮の中にGS様の陰影(→Cで示した部分)を認めますが、中にYSを認めないためこれはArias-Stella Signと考えられる所見になります。

 

 この他の診断法としては、以下のようなものが良く行われます。
  3)内診
  4)ダグラス窩穿刺
  5)子宮内の試験的掻爬
  6)腹腔鏡

 3)については言うまでもないでしょう。
 子宮外妊娠においても内診所見というのは非常に大切なもので、腹腔内への出血が起こっていると内診でかなり強い痛みを感じるようになります。これは子宮外妊娠を診断する上での重要な手がかりとなる所見の一つなのですが、しかしもともと子宮内膜症を持っていた人の場合には、全く同様の痛みが「もともとある」わけですから、この場合には判断材料にはなり得ません。
 以前に内診を受けたことがあって、その時には全く痛みを感じなかったというのであれば、多少のの診断の手助けにはなり得ますが、いままで一度も診察を受けたことがなかった場合には子宮外妊娠を判断する材料とはならないことになります。
 4)は、腹腔内への出血があることの証明をするための診断法です。
 ダグラス窩穿刺のイラストを下に示しましたが、このように膣からダグラス窩へ向けて針を刺して吸引すると、腹腔内出血がある場合は血液が吸引されてきます。吸引された血液は凝固しないのが特徴で、誤って血管や別の組織を穿刺して吸引された血液は凝固するため鑑別が可能ですが、子宮内膜症によるチョコレート嚢胞を穿刺した場合には鑑別が難しい場合もあります。

 5)は、子宮内に妊娠していないことを照明するための方法です。
 子宮外妊娠が疑われた場合、逆に言えば子宮の中に妊娠している可能性はほとんどないと言えますから(子宮内外の同時妊娠の可能性は約3万分の1)、子宮内を掻爬して子宮内に妊娠組織がないことを確認し、しかもその後にも持続して妊娠反応が出るのであれば、子宮の内腔以外に妊娠している場所があることになりますから子宮外妊娠であると判断できることになります。
 また、同時にもしも子宮内での流産であった場合には、子宮内掻爬により子宮内に妊娠組織を確認することができることになりますし、その場合は掻爬後には妊娠反応が消失することになりますから、流産かどうかの判断も可能になることになります。
 なかなか子宮外妊娠であるという判断が下せないまま経過観察をせざるを得ない場合、子宮内掻爬を行うことは子宮外妊娠であることを確定する上での貴重な診断法であると言えます。
 6)腹腔鏡による診断・治療については、こちらに詳細がありますので参考にして下さい。

 

4.治療

 子宮外妊娠の治療は、薬物による治療と外科的治療(手術)の二通りがあります。
 薬物治療には通常、メトトレキセート(Methotrexate ; MTX)という抗ガン剤が用いられ、この薬剤によって妊娠組織を消失させることが目的となりますが、この薬剤は白血球や血小板の減少、貧血、脱毛、肝機能障害、重度の下痢、嘔気嘔吐等、副作用における問題点も他の抗ガン剤同様にあるため、使用する場合には細心の注意が必要であり、したがってあまり一般的に行われる方法とは言えないものでしょう。また、卵管破裂を起こしてしまった場合には緊急を要することから、この治療法は選択されないのが普通です。
 外科的治療としては、開腹手術及び腹腔鏡下の手術があります。
 腹腔鏡下の手術に関してはこちらの記載をご覧下さい。
 開腹手術では、
  a.患側の卵管摘除術
  b.患側の付属器摘出術
  C.患側の卵管形成術
 などが行われるものですが、ほとんどはa、すなわち子宮外妊娠を起こした側の卵管を摘除する方法が取られるのが一般的です。bは、よほどのことがない限り行われることはありませんが、卵巣との癒着がひどかったり卵巣に異常がある場合などには行われることがあるものです。
 cの卵管形成術は、卵管を保存的に手術することが可能な場合(卵管を残すことができる場合)に限りますが、これは通常顕微鏡下に行われるものですから、それなりの設備がある病院でないと行われないものです。また、卵管形成術を行って卵管を保存した場合には、同部位で再度子宮外妊娠を起こす可能性も少し高くなることを承知しておく必要があるでしょう。