レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

15.妊娠前に受けておいた方が良い検査にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

1.一般婦人科的検査

 「妊娠前に」と限ったものではありませんが、例えば子宮筋腫のような妊娠に大いに影響を及ぼす可能性のある病気がないかどうかという意味では、一般的な婦人科の検査は受けておいた方が良いと思われます。
 具体的には子宮がん検査や超音波検査が主となりますが、その他一般血液検査(血液型、貧血の有無など)や尿検査、血圧測定なども受けておいた方が良い検査と考えられます。
 

2.感染症の検査

 通常「妊娠前に受けておいた方が良い」と言った場合は、まずこの感染症に関するものを指すものと考えて良いでしょう。ある種の感染症は、妊娠中あるいは分娩時に胎児に感染し、胎児に重篤な病状を引き起こすことが知られています。
 以下にそれらの感染症について簡単に解説していきましょう。
  (色:受けておくべき 色:受けておくことが望ましい 色:できれば受ける)


  1. 風疹
     妊娠初〜中期に風疹に感染すると、胎児に奇形を起こすことが知られています。
    詳細は「妊娠中に風疹に感染したら?」を参照して頂きたいと思いますが、妊娠前に検査を受ける時には、採血により風疹抗体価を調べることになります。
     風疹抗体価を調べることで風疹に対する抗体を保持しているかどうかを判断するわけですが、もし風疹に対する抗体を持っていれば「風疹に感染する心配はない」と判断でき、そのままいつ妊娠しても良いということになりますが、万が一風疹に対する抗体を持っていない場合には、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受けて風疹に対する免疫を取得しておく必要があります。
     なお、風疹ワクチン接種後は妊娠するまでに3ヶ月ほど(最低2ヶ月)期間をおいた方が良いとされています。
     
  2. 梅毒
     梅毒は、胎盤を介して胎児に感染し、流産や早産、先天性梅毒を起こすことが知られています。梅毒に感染しても、その初期症状には「痛みを伴わない、一時的な」外陰部の硬結やそけい部のリンパ節腫脹が見られるくらいで、やがて一時的に軽快し、2〜3ヶ月は無症状となります。従って、妊娠する前に梅毒に感染している可能性は否定しておくべきでしょう。
     
  3. B型・C型肝炎
     いずれの肝炎もウイルス感染によるもので、どちらも分娩時に胎児に感染を起こすことがあることが知られています。
     C型肝炎ウイルスでは、その感染率は2〜3%という報告から10%程度という報告までありますが、おおむね母児間での感染率は低いものだと考えて良いでしょう。通常C型肝炎ウイルスに対する抗体検査(HCV抗体検査)を行うことで判断します。
     一方B型肝炎ウイルスでは、最初にHBs抗原検査という検査を行い、これで陽性になった場合B型肝炎ウイルスに感染しているものと判断して次にHBe抗原検査という検査を行います。これが陽性である場合はウイルスが体内で活動的であると考え、感染力も強いものと判断されます。ちなみにHBe抗原が陰性の場合の胎児への感染率は2〜3%であるのに対し、HBe抗原陽性の場合には約80%であると報告されています。
     どちらの場合でも感染が起こった場合、児はキャリア(ウイルスを血液中に持っているが、発症していない状態)となり、成人してから肝炎を発症する可能性がある状態となります。
     母児感染によりキャリアとなった場合、のちに肝炎(あるいは肝硬変、肝がん)を発症する率は、B型では10%程度、C型では70〜80%であると報告されています。
     
  4. HIV(AIDS;エイズ)
     近年日本でもAIDS患者は増加傾向にあり、特に以前のように血液凝固因子製剤による感染が減少する代わりに性行為による感染が急増していることが特筆すべき点です。
     またエイズは母児感染することがすでに知られており、日本での「HIV母子感染予防の臨床的研究グループ」による報告では、年間分娩数約50万件に対してHIV感染が認められた妊婦が217例(0.043%)あり、うち出産に至った児の30%にHIV感染が認められたと報告されています。一方、妊娠前あるいは妊娠初期にAIDS抗体検査を行い、陽性と判断された症例ではそのほとんどが妊娠中に抗HIV剤の投与を受け、帝王切開による分娩を選択すること(さらに母乳による育児を禁じることも含めて)により、児へのHIV感染率を2%にまで低下させうることも報告しています。
     つまり、喩えAIDSに感染していても適切な治療及び指導によりHIV母児感染を相当の割合で防ぐことができるわけで、必ずしも妊娠中絶の適応となるものではないことがわかってきているわけです。
     妊娠を考えるならやはり事前に検査を受けておくべきものではないでしょうか。
     
  5. クラミジア
     現在、最も感染者の多いSTD(性行為感染症)はこのクラミジアで、しかも中高年に比較して若年者により多く感染が見られるというデータがあります。すなわち、妊娠中に最も関わりを持つ可能性のあるSTDである、と言い換えることができます。
     クラミジアは女性の場合、最初に子宮頸管に感染を起こして子宮頸管炎となりますが、子宮頸管炎ではほとんど症状として現れることはなく、さらに病状が進行して卵管炎や骨盤内腹膜炎となって初めて症状(腹痛や発熱など)が現れるものです。また卵管炎や骨盤内腹膜炎は不妊症の一因ともなりうるものです。
     そしてクラミジアは、分娩時に胎児に感染を起こして結膜炎や肺炎を起こすことがあることも知られていますから、喩え全く症状がない状態だとしても、知らない間にクラミジアに感染していて分娩時に胎児に感染を起こしてしまう可能性はある、ということになります。
     以上のような理由で、やはりクラミジアの検査は受けておくべきだと考えられます。
     クラミジアの検査とその意義に関してはこちらに詳細があります。
     
  6. ATL(成人性T細胞白血病)
     この疾患はHTLV-1というウイルスにより発症するもので、母児間の感染は主として母乳によるものであることが知られています。したがって、児への感染を予防するために、通常は授乳を禁ずることになります。
     児へ感染してキャリアとなっても、発症するのはほとんど高年になってからであり、またその発症頻度も5〜10%程度と低いものであると言われますが、しかし発症後の予後はかなり悪く2年以上生きるのは難しいとされる病気です。
     ATLに関してはこちらに詳細がありますが、この検査も妊娠前に受けておいた方が良いものの一つと言えるでしょう。
     
  7. サイトメガロウイルス(CMV)
     以前はサイトメガロウイルスに対する抗体を90%以上の人が保有していましたが、最近その保有率は70%台にまで下がったことがいくつかの研究で報告されています。つまり、妊娠中にサイトメガロウイルスに感染して先天性CMV感染症患児を出産する危険性が高くなってきているということです。
     妊娠中にCMVに初感染した場合、胎盤を通じて胎児に感染する率は20〜40%であるとの報告があり、そのうちの5〜10%の児に種々の症状が現れ、また重篤化しやすいとも言われています。さらに、新生児期に発症しなくとも後に難聴や神経学的後遺症を発症することも少ないながらも見られるため、妊娠前における抗体保持の有無を確認しておくことが望まれます。
     
  8. 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)
     水痘、いわゆる水ぼうそうは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染により発症するもので、サイトメガロウイルスと同様、幼少時に感染し抗体を保有している割合が減少してきていると報告されています。つまりこの疾患も妊娠中に初感染を起こす可能性が高くなってきているわけですが、VZV感染で問題になるのは妊娠初期に感染することで先天性水痘症候群(目の異常、四肢の低形成、大脳萎縮による小頭症など)を発症することです。
     その発生率は1%程度との報告ですからかなり低いものですが、念のため妊娠前に抗体を保有しているかどうか調べておいた方が良いものと言えるでしょう。
     
  9. トキソプラズマ
     トキソプラズマはToxoplasma gondiiという原虫により起こる感染症で、妊娠週数が進むほど妊娠中に初感染した場合に胎児へ先天性トキソプラズマ症を発症する可能性が高くなる、と言われています。
     しかしその発症頻度はかなり低いのか、先天性トキソプラズマ症の報告自体が大変まれなものです。
     感染ルートは主として生肉の生食、及び猫の糞からとなるため、「妊娠中には猫を飼っていると危険」と言われるのですが、実際猫の糞から感染する場合、妊婦がトキソプラズマに対する抗体を持っていないこと、猫が同じく抗体を持っていないこと、さらに猫の糞を丸2日以上放置してその糞を手でさわり、そのままの手で食物に触れてその食物を食するという、きわめてあり得ないようなシチュエーション下でのみ感染が起こるものなのです。
     それでもやはり心配、という方は、検査を受けて抗体を持っているかどうかを調べておくと良いでしょう。
     
  10. ヒトパルボウイルスB19
     これは伝染性紅斑という小児に多く見られる疾患を起こすウイルスで、伝染性紅斑はほっぺたが赤くなることから別名「リンゴ病」とも呼ばれている病気です。
     妊娠中に感染することにより流産、あるいは胎児水腫を起こすことがあると報告されていますが、一方で胎児感染が確認された場合でも通常の分娩経過をたどり何の異常もなく発育することがほとんどであるとも報告されています。
     したがって、妊娠中に感染したとしても先天性の異常を持った児として生まれる可能性はほとんどないと考えても良いのですが、これも妊娠前に抗体検査をすることができますので、心配な方は受けておくと良いかもしれません。

3.その他特殊な検査

3-1.子宮卵管造影検査
 例えば、以前にクラミジアや淋病などの感染症のため治療を受けたことがあるという場合、卵管が癒着や閉塞・閉鎖を起こしている場合があります。また、子宮内膜症との診断で治療を受けたことがある、という場合でも同様です。卵管に上記のような異常があった場合、これは不妊症の原因となりうるものですから、事前に検査を受けておく必要があると言えるでしょう。
 またこの検査は子宮筋腫がある場合に、子宮内腔への筋腫の圧迫がどの程度あるかを知ることもできますので、筋腫ありと言われたことがある場合に受けることを考えても良い検査と言えます。

3-2.基礎体温
 受ける検査、というものとは若干意味合いが違いますが、排卵の有無を知るという意味では大切なものです。自分で毎朝体温を測ることだけで良いのですからすぐに始められますし、またどう評価して良いのかわからないなどの場合には先生に相談すれば良いわけですから、是非初めてみて欲しいものです。
なお、基礎体温についてはこちらに詳しく記載がありますので参考にして下さい。