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8.胞状奇胎について教えて下さい

 

胞状奇胎の病態について
   症状について
   治療について
胞状奇胎後の管理について
   次の妊娠は?
侵入性奇胎に関して
存続絨毛症に関して

 

 

●病態

 精子と卵が受精をしてから2週間以上経過すると、受精卵は子宮内へ到達し子宮内膜に着床します。この時、受精卵は胎児へ発生する「胎芽」部分と、胎盤へ発生する「絨毛」とに分かれる状態にまで発生しています。
 絨毛というのは細かい毛のような組織で、胎芽部分(=胎児)とは臍帯を通じてつながっており、木の根を伸ばすように子宮内膜内へ伸びていって、母胎側から栄養分や酸素を吸収する働きを持つ組織です。また同時に、HCGというホルモンを分泌して卵巣に形成されている黄体を刺激し、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を促すことで妊娠の維持につとめるという働きも持ち合わせています。(この機構についての詳細はここに記載してあります)
 ところが、時にこの絨毛部分だけが異常増殖を起こすことがあり、これが顕著になると子宮内腔を異常増殖した絨毛組織だけで占領してしまうようになります。このような病気を胞状奇胎と呼びます。

 

 絨毛部分が異常増殖しても胎芽部分も発育している場合がありますが、このようなケースを部分胞状奇胎と呼びまず。一方、胎芽部分が全く発育せず子宮腔内が絨毛の異常増殖だけで占められている場合には全胞状奇胎と呼ばれます。
 肉眼的に見ると、異常増殖して水疱状になった絨毛がブドウの房状に見えるので、別名「ブドウ子」という呼び名があります。
 右の写真は胞状奇胎の写真ですが、ブドウの房状になっている絨毛の変化がわかりますでしょうか?
 

 胞状奇胎が起こる原因は、
  ・一つの卵子に二つの精子が侵入すること
  ・受精時に卵由来の核が不活化し、精子由来の核のみが分裂増殖していくこと
 であると考えられています。
 後者では全胞状奇胎となり妊娠の継続は不可能ですが、前者の場合は言ってみれば一卵性双生児の片方が奇形(=胞状奇胎)となることと同義であるわけですから、もし健常な側の胎児に染色体異常や胎児の発育異常が認められない場合には、どうしても妊娠を継続したいという本人の意向が強い場合に限って分娩まで妊娠を継続するような場合もあり得ます。
 しかし、胞状奇胎はいわば絨毛癌へ移行する前癌状態ともいえますからこうして分娩まで持っていくというのは非常に危険なことであり、よほどの事情でもない限りはまず処置をしてきちんとした管理を受け、完治したということを確認した上で次の妊娠に期待する、というのが普通でしょう。

 

 

●症状

 さて、胞状奇胎の症状ですが、一言でいうと
  「つわりがひどいのに切迫流産の症状がある
   ということになります。
 通常、切迫流産すなわち流産しかかった状態にある場合には、絨毛から分泌されているホルモン(HCG)が減少している場合が多く、そのために子宮内での妊娠の維持が不安定になり出血・腹痛を起こすのですが、それと同時につわりの原因といわれるHCGが減少しているためにつわり症状が軽くなるのが普通です。
 これに対し、胞状奇胎では絨毛が異常増殖するために不正出血や腹痛を起こしますが、同時に絨毛から分泌されるHCGも大量となるためつわり症状が悪化するという、切迫流産とは相反する状態を呈するようになるのです。
 このほか、他覚的所見として
  ・妊娠週数に比して子宮が大きく軟らかい
  ・超音波所見で多数の粒状陰影が認められる
  ・尿中(ないしは血中)のHCG量が異常高値を示す
などの所見が認められます。
 ただし、以上はあくまで典型的な場合の話で、時々HCGの分泌量が通常通りであるケースもまま見られます。こういう場合はつわり症状も軽く超音波所見でも粒状陰影があまりはっきりしないため、結果として通常の流産との鑑別が難しくなります。
 このような理由から、流産として処置(子宮内掻爬)をして初めて、ないしは組織検査を行ってみて初めて胞状奇胎と判明するという場合も珍しくありません。

 

●治療

 治療の第一は子宮内掻爬をすることです。
 子宮内掻爬は5〜7日ほど日にちをあけて二度に渡って掻爬を行うのが普通で、これは胞状奇胎では子宮がかなり軟らかくなっていて掻爬操作によって子宮に穴を開けてしまう可能性があること、および二度の操作を行うことで子宮内容をなるべく完全に除去するようにすることがその理由です。
 掻爬によって子宮内容を除去すると、その後はHCGが減少し通常の非妊娠レベルまで低下するはずですから、以後はこのHCGを追いかけることで胞状奇胎後の管理を行うことになります。
 HCG量の低下の目安としては、
  再掻爬後  週で  1000 IU/l以下
        週で  100 IU/l以下
       12週で  LHレベルまで低下
 と考えられ、これに従ってHCG量が低下している場合には経過順調と考えて良いものです。
 一旦低下したHCG量が再増加したり、順調に減少してこない場合には侵入性奇胎の可能性、ないしは絨毛癌への移行を考慮して、
 a)子宮全摘
 b)抗ガン剤を用いた治療
 を行います。どちらを選択するかは本人の病状、挙児希望があるか否かなどによって異なります。

 

●奇胎後の管理

 経過が順調である場合には、2〜4週間ごとの通院により管理を行います。
 もしも胞状奇胎が再発した場合、もしくは絨毛癌が発生した場合には再びHCGの分泌が盛んになりますから、その結果基礎体温は上昇したままになり尿検査で妊娠反応が出るようになります。
 したがって奇胎後の管理に必要になるのは基礎体温の測定妊娠反応検査ということになりますが、さてもし奇胎後の管理中に新たに妊娠してしまったらどうなるでしょう?そう、再発したのか新たに妊娠したのかの区別が付かなくなってしまいますね。
 よって、「もう大丈夫」という判断が降りるまではきつく「避妊するように!」という指導がなされるようになります。
 施設によっても違うようですが、おおむね6ヶ月〜2年間くらいの避妊を言い渡されることが多いようで、その間は先述のように2〜4週間ごとに通院するようになるのが普通でしょう。

 

●次の妊娠は?

 きちんと管理を受けたあと、「もう妊娠しても大丈夫」という医師からの許可が下りれば、次の妊娠にトライしても大丈夫です。
 この場合、「また胞状奇胎になるのでは?」「異常がある子供ができてしまうのでは?」などの心配が浮かんでくるかもしれませんが、そのような心配は無用です。普通と同じように考えていて良いでしょう。

 

 ***侵入性奇胎に関して   

 胞状奇胎が子宮内膜から子宮筋層まで侵入していった場合、これを侵入性(破壊性)奇胎と呼びます。子宮内掻爬によって奇胎を除去できるのは子宮内膜内にあるものだけで筋層に侵入しているものまでは掻爬できません。たとえ子宮鏡で子宮内腔を見ることができたとしても、肉眼では確認できないような病変までは処置できませんから、治療の手段としては抗ガン剤を用いての治療か、もしくは子宮を全摘する以外ありません。

 

      

 侵入性(破壊性)奇胎では、奇胎組織が子宮筋層内に侵入するだけではなく血行性ないしはリンパ行性に転移をすることもあり、細胞自体がガン細胞ほどの悪性を帯びたものではないため命に関わるような危険性は多少少なめとはいえるものの、放置するのは大変危険なことと言えるでしょう。
 胞状奇胎で掻爬手術を行った後、HCG量が順調に低下しない場合、あるいは一度順調に低下したものが再度上昇した場合(→基礎体温が上昇したままで妊娠反応が出るようになります)、侵入性(破壊性)奇胎が疑えますので、先述のように
 a)子宮全摘
 b)抗ガン剤を用いた治療
 を行うことになります。

 

 ***存続絨毛症に関して   

 存続絨毛症というのは、胞状奇胎の処置後、絨毛がまだ体内に残存している徴候の見られる状態をいい、臨床的にはそれが侵入性奇胎か絨毛癌かの区別がつくものの、組織学的には両者の鑑別がつかない状態を称していうものです。
 現在では胞状奇胎後の管理が徹底して行われているために、奇胎娩出後のHCGの減少が思わしくない場合、または一度低下したHCGが再度上昇してきた場合にはすぐに前述のように化学療法(抗ガン剤を用いる方法)ないしは子宮全摘手術が行われます。これにより、侵入性奇胎か絨毛癌かの鑑別がつかないままに治療・完全治癒となるケースが多くなったため、便宜上「存続絨毛症」として治療するケースが増えています。
 昔のように管理が徹底していなかった時代とは異なり、はっきりと侵入奇胎と絨毛癌とを区別できるようなケースが激減したことで、このような名称が多く使用されるようになってきたものと考えると良いでしょう。

 

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