子宮筋腫は良性腫瘍です。
すなわち、勝手にどんどんと腫大していくことにより起こる障害(月経過多、貧血、頻尿、月経痛、下腹部痛、腰痛など )の発生はあるが、悪性腫瘍のように浸潤性増殖や転移を示すことはなく、従って生命の危機をもたらすことはまずないもの、と考えて良いわけです。
ところが、たまに筋腫を検査する時に「悪性の心配はないかどうか」に関してのお話がある場合があります。この場合の「悪性」というのは、卵巣腫瘍との鑑別を含めたものではなくてあくまで子宮筋腫、すなわち子宮にできた腫瘍として「悪性ではないかどうか」というお話しに限るものです。また、時には「筋腫が悪性化する」というお話であるかもしれません。
子宮筋腫は良性腫瘍なのに、悪化することがあるのだろうか?・・・
という疑問も浮かんできて当然でしょう。 厳密に言うと、実は、子宮筋腫が存在しそれが悪性化する、ということではありません。
ごくまれといって良いのですが、子宮には子宮体癌以外にも悪性の腫瘍が発生する場合があって、これらの腫瘍は子宮筋腫と鑑別がつきにくい場合が多いのです。ということは、術前に子宮筋腫と診断したものの、術後の組織検査で悪性腫瘍であると判明する場合もまれにある、ということになるわけです。
MRI、CTといった最新の検査機器でも判別がつけにくい場合があること、子宮ガン検診のような細胞診検査ではまず引っかからないことなどがその理由ですが、そうなると子宮筋腫と診断したものの、100%そうだとは必ずしもいえない、ということになるわけです。
となると、通常の子宮筋腫とちょっと違うかも?という疑いが少しでもある場合は、こういう可能性も考慮した上でやはり手術摘出が最良である、ということになります。
このような悪性腫瘍のうち、大半を占めるのが「子宮筋肉腫」(uterine
myosarcoma)という腫瘍です。子宮筋肉腫は子宮筋腫同様に子宮筋層内に腫瘤を形成し、超音波検査やMRI、CTでも時々子宮筋腫同様の所見を示すため子宮筋腫との鑑別が難しい場合がある悪性腫瘍です。
ところで、骨肉腫という病気がありますが、これは骨のガンといわれますね。
筋肉腫というのはいわば骨肉腫の筋肉バージョン、すなわち筋肉のガンと考えて良いのですが、この根底には「癌腫」と「肉腫」に関する定義の問題があり、それを説明しなければ正しい説明にはなりません。
悪性腫瘍のうち、「癌腫」は上皮から発生し、その他の部分から発生するものを「肉腫」と呼ぶ、というのが正式に規定されていることなのですが、これを踏まえると、上皮には属さない子宮筋層から発生する悪性腫瘍は「肉腫」と呼ぶことになります。よって、子宮筋層から発生する悪性腫瘍は子宮筋肉腫と呼ぶわけです。
ちなみに、一般的に言われている子宮癌(頸癌、体癌)というのは、子宮の上皮(扁平上皮と腺上皮 )から発生する腫瘍であるから「癌」と呼ばれるのです。
正確にお話しすると以上のような説明になるのですが、これを患者さん側に簡単に理解してもらえるものではありませんし、また全部を説明しようとすればかなり時間がかかってしまいます。
そこで、簡単に「筋腫が癌化する」もの、と説明されるわけです。 これが、「筋腫の悪性化」という説明のウラにある真相です。 とすれば、病院で「子宮筋腫です」と診断され、定期検診を受けて下さい、といわれたとして、検診に通院している間にいつの間にか筋腫が癌化(正確には悪性化)してしまった、という危険性はない、ということになるわけですね。
もしも最初に筋腫と診断した時に、少しでも悪性腫瘍(=肉腫)の疑いがあるのであれば、たとえ腫瘍が小さいものであってもMRI、CTなどで精査することになるでしょうし、まず手術を勧められることになるでしょうから、そういう意味では「定期検診のため通院中に筋腫が癌化してしまった」という心配はほとんどしなくて良い、というわけです。
だからといって放置すれば、たとえ良性腫瘍だとはいっても筋腫で命を落とす危険性はゼロではありませんから、やはりきちんと定期検診は受けるようにしてください。
|