1.人工授精とは
人工授精というのは、通常はAIHもしくはAIDのことを意味します。
AIHは配偶者間人工授精(Artificial Insemination of Husband)を、AIDは非配偶者間人工授精(Artificial
Insemination of Donor)を意味するもので、前者は夫の精液を、後者は精子提供者の精液を直接子宮腔内へ注入する方法で行います。最近では精液を直接注入するのではなく、運動精子のみを選別して子宮腔へ注入する方が妊娠率も高く副作用も少ないために普及してきているようです。
フーナーテスト(ヒューナーテスト)陽性の場合や、排卵日に性生活を送ってもなかなか妊娠しない場合、乏精子症や精子無力症など精子に不妊症の原因があると考えられる場合、性交障害がある場合(インポテンツ、女性性器の形態異常等)などが人工授精の適応となります。
通常はまず5回くらいは連続して行うものであると思いますが、少なくとも10回以上施行しても妊娠しない場合にはそれ以上繰り返しても妊娠する率はかなり低いため、他の方法へ切り替えるべきであると考えられます。
2.体外受精について
これに対して、体外受精というのは体内で受精が難しいと考えられる場合に行う方法で、文字通り「体外で」受精を行う方法を指します。現在最も一般的であるのはIVF-ET(体外受精-胚移植)ですが、GIFT(配偶子卵管内移植)、顕微受精(ICSI;卵細胞質内精子注入法、ほか)あるいは凍結胚移植なども含めて体外受精と呼称されているようです。
体外受精の適応については以下のようなケースが相当します。
すなわち、卵管が閉塞している、乏精子症や精子無力症など精子に原因がある、免疫系に原因がある、AIHを何度も施行しても妊娠しない、子宮内膜症があって妊娠しない、原因不明である、などです。
3.体外受精の施行方法
さて、体外受精の施行方法ですが、大きく三つの行程に分けられます。
その最初は、効率よく排卵を起こさせるために各種ホルモン剤や排卵誘発剤などを投与し、過排卵を惹起させるものです。通常はHMG製剤を注射しながら卵胞をモニターし、卵胞がおよそ18mm径になるまで誘発をしたあと、HCG注射により排卵を促すようにします。
その次の行程ではまず採卵を行います。HCG注射により排卵を促したあと、経膣的に超音波下に卵胞に針を刺して卵を吸引しますが、通常これは麻酔下で行われます。採取した卵は次に培養液中で精子と混和させて受精させます(媒精といいます)。媒精は1〜2日培養器内で行い、受精して分割を始めたものを選別します。
そして最後の行程で、選別した受精卵を子宮内へ移植します(胚移植といいます)。戻す個数については議論のあるところで、日本産婦人科学会での勧告では2ないしは3個にとどめるべきであるとされています。
また、胚移植後は着床を助けるために黄体ホルモン剤の追加投与を行うのが一般 的です。
なお、最近では質の高い受精卵がたくさんあった場合には受精卵を凍結保存して次回に胚移植のみを行ったり、あるいは精子の受精能力がかなり弱い場合には卵細胞内へ人為的に精子を侵入させる方法(顕微受精)を行ったりも可能ですが、どこまで対応可能かは施設によって異なりますのであらかじめ問い合わせをして確認しておくと良いでしょう。
人工授精にしても体外受精にしても、現時点では保険の適応外ですので、排卵誘発を含めて全額自費扱いです。このため使用する薬剤や器具によって費用が施設によって大きく異なりますので、この点についてもあらかじめ良く説明を受けておくべきでしょう。
一般的には人工授精(AIH)は1〜3万円ほど、体外受精(IVF-ET)は30〜50万円ほどであると考えて良いと思います。
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