レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

11.頸管妊娠について教えて下さい

 

 通常、受精卵が着床するのは子宮体部と呼ばれる内腔の広くなった場所ですが、まれに子宮頸管と呼ばれる、膣方面に続く子宮の出口方の細い管状部分に着床してしまうことがあります。これを頸管妊娠と呼びます。
 発生頻度は報告者によってまちまちですが、おおよそ妊娠1〜2万件に対して1件程度であると考えられています。
 頸管妊娠を起こす原因については不詳ですが、子宮内膜の炎症や子宮奇形、子宮筋腫などはその要因の一つであると考えられています。また、人工妊娠中絶後、比較的短期間に発生することが多いことも知られており、人工妊娠中絶も原因の一つであると考えて間違いないといえるでしょう。

 頸管妊娠の第一の問題点は、頸管内膜が脱落膜変化を起こしにくく、絨毛が容易に子宮筋層まで侵入しやすいため血管の破綻を来しやすいこと、そして場所が子宮動脈の侵入部に近いため大出血を起こしやすいことにあります。下図を参照して下さい。
 わかりにくい・・・ですね?
 では、もう少しわかりやすく説明しましょう。

 まず着床する時点で受精卵は、胎児に発育する細胞塊(胎芽)と将来胎盤を形成する元となる細胞塊(栄養胚葉)とに分かれ、着床したあとは後者の栄養胚葉から延びる絨毛が、子宮内膜の中に木が根を張るようにして延びていきます。これによって、子宮内膜あるいは母胎側の血液を介して酸素や栄養分を取り入れ、胎児側に送るようになります。(右のイラスト「着床時期の受精卵」参照)
 ここで、通常の妊娠の場合は子宮内膜自体にも変化が起こり、内膜全体が肥厚して受精卵全体(=胎芽と栄養胚葉全体)を包み込む部分と、それを支える部分とに分かれるような変化を示します。このような変化を子宮内膜の脱落膜変化と呼びますが、これによって一方で受精卵を支えながら胎児側から延びてくる絨毛を包み込むように発育して胎盤を形成するようになります。
 しかしながら子宮頸管の内膜は、妊娠してもこのような脱落膜変化をほとんど起こしませんから、頸管に妊娠した場合には胎児側から延びる絨毛は容易に子宮内膜を通過して子宮筋層内へ浸潤発育していってしまいます。このため、まずほとんどの症例において、妊娠初期に不正出血を起こすこととなります。
 ここまでは症状的には切迫流産(通常妊娠において、流産しかかった状態になることをいいます)と何ら変わるところはないのですが、このあと決定的な違いが起こってきます。その要因が、「筋層内へ浸潤して血管の破綻を来しやすい」ということ、そして「子宮動脈の侵入部に近い」ということにあります。
 この部位で発育することで、筋層内へ浸潤して血管の破綻を来して出血を起こすことがほぼ必発となりますが、この場合子宮動脈本管に隣接しているために大出血となりやすく、また動脈性の出血となることが多いためため止血しにくいということが起こります。したがって、切迫流産徴候(腹痛や不正出血など)に引き続いて、止血しがたい大出血を起こすことが多いのが頸管妊娠の特徴であり、また問題点でもあるわけです。
 下のイラスト「頸管妊娠」を参照して下さい。

 したがって、頸管妊娠が判明し、しかも大出血を起こしてしまった場合には、原則として子宮摘出が必要となります。多くの場合かなり大量の出血を起こしているために、重症の貧血や出血性ショックを招くこともあり、したがって輸血を必要とすることも稀ではありません。
 子宮筋層内への浸潤が浅い場合、比較的初期に判明したため妊娠組織がまだ小さい場合で、子宮を温存したい(=妊娠の希望がある)場合では、子宮を摘出せずに保存的に治療を行うことも可能です。この場合は、
 1)掻爬を行う
 2)投薬治療による
 3)両者を組み合わせる
のいずれかの方法が取られます。
 1)に関しては、筋層内浸潤が浅いことが絶対条件になります(浸潤が深いと掻爬が不完全となったり止血することが不可能となったりします)。大量出血の可能性、止血困難となる可能性を考えると大変危険性の高い方法といえますので、これは子宮を温存したい場合に限る方法であって、しかもすぐに開腹手術に切り替えられるような準備をした上で行うべき方法であるといえるでしょう。
 2)についても同様に子宮を温存するための方法ともいえます。
 こちらは、メソトレキセート(Methotrexate ; MTX)という抗ガン剤を用いる方法で、これにより妊娠組織を壊死させて治療するものですが、この方法も副作用によって白血球減少、血小板減少、貧血、脱毛、肝機能障害、重度の下痢、嘔気嘔吐等が出現することがあり、注意を要します。また、投薬治療では入院が数ヶ月に及ぶこともあり長期を要することが多いことも欠点の一つでしょう。
 なおこの方法は子宮外妊娠の治療にも用いられます。(→こちらを参照)
 3)は以上の両者を組み合わせるものです。

 最後に診断に関してのお話しをします。
 内診所見に関してはここでは割愛するとして、やはり診断する上で最も有効なものと言える画像診断に関してのお話しをしましょう。
 画像診断のうち、最も診断に有効なものは経膣式超音波断層法です。
 経膣式超音波では子宮の形態がしっかり把握できますから、これによって子宮頸部に妊娠していることを確認すれば良いことになります。下の写真をご覧下さい。左側の写真が超音波画像になりますが、子宮体部では子宮内膜がしっかりと確認できること、子宮頸部が腫大していてそこに妊娠部分が確認できること、子宮頸部が腫大しているために子宮全体がだるま状を呈していることが確認できることがわかるでしょうか。
 しかし、ここに示した写真のように明瞭に描出されることは少なくて、特に流産しかかっている場合などではなかなか超音波上はっきりしない場合も多々あります。このような場合にはMRIを撮影することもあります。

 写真の右側がMRI画像になりますが、こちらでも超音波による画像と同様の所見が得られることがわかるでしょうか。
 以上が、頸管妊娠に関する詳細です。