レディースホームFAQF.STD(性行為感染症)に関するもの編

3.ヘルペスについて

 

 

 外陰ヘルペスというのは、単純ヘルペスウイルス(主に2型)により起こる疾患で、症状は外陰部に形成される口内炎に似た病変(潰瘍といい、ほとんど多発性に出現します)と、それに伴う外陰部の疼痛(激痛)です。
 性行為などにより感染が起こると、3〜7日の潜伏期間をおいて急性に発症し、時には発熱を伴うこともありますが多くはひどい痛みに襲われます。
 外陰部にできた潰瘍病変は触れると激痛を感じるために排尿困難となることもあり、またさらに歩行困難になることすらあるため、入院治療を必要とすることもしばしばです。(下の写真を参照)
 また、後述するようにヘルペスは再発を起こしやすい疾患で、再発した場合には初感染ほどの激烈な症状は現れずに軽い症状のみで比較的短期間に治癒することが多いようです。自然に放置しても1週間以内で自然に治ってしまうこともありますが、2週間以上治癒せずに長期化することもまれではありません。

 診断法には病変より直接に病原ウイルスを検出する方法(病原診断)と、血液検査によって血中にヘルペスに対する抗体が形成されていることを確認するもの(血清診断)とがあります。前者は検査が容易ではない、コストがかかる、病変がはっきりしない場合は精度が落ちるなどの問題がありますが検査の信頼度は高いものであるのに対し、後者は検査が容易なのに比して検査の信頼度はあまり高くない、感染初期には診断には向かない、などの性質があります。一般的には後者が主に行われているものと思いますが、この検査では再発か初感染かを判別することが難しく、また初感染の場合には、発症してから10日以上経てばほぼ100%抗体形成が起こるため診断に有用であると言えるものですが、急性期(発症して間もない時期)には抗体がまだ形成されていないため、この時期に検査をしても「抗体陰性」という結果、すなわち「ヘルペス感染ではない」という結果を招く可能性もあり、確実な診断法とは言い切れないものです。
 よって、現状では検査で判断するというよりもその病状をもって判断する場合が多いといえるかもしれません。

 鑑別についてですが、ヘルペスと似たような病変を形成するものとしては、細菌性の外陰潰瘍、ベーチェット病があります。
 細菌性外陰潰瘍は単発の潰瘍を形成することが多く、ヘルペスのように両側の陰唇に病変を形成することはまれです。ベーチェット病も細菌性外陰潰瘍に準じますが、この疾患は細菌感染と免疫系の異常が指摘されており、外陰潰瘍のほかにも口腔粘膜の再発性潰瘍、眼症状(目のかすみや視力低下など)、皮膚症状(結節性紅斑、血栓性静脈炎など)、関節症状(痛み)などを伴うことが多いものです。
 いずれも鑑別は比較的容易でしょう。

 治療にはアシクロビル(商:ゾビラックス)という薬剤を用いて治療します。
 点滴静注、軟膏、内服があり、病状に応じて使用します。
 たいていは治療を開始してから1週間ほどで治癒します。

  左の写真はヘルペスによる外陰炎病変を示したものです。円形の、表皮が剥脱したような、口内炎に良く似た病変が多発しているのがわかります。とにかく「痛い」というのが主症状です。
 

 しかし、ヘルペスがやっかいな病気であるのはこのあとです。
 初めに外陰部に感染をすると、ここへ来ている神経に沿って上行し、神経節まで登ってここに潜り込んでしまい、風邪を引いたり精神的・肉体的なストレスにより抵抗力が落ちる、妊娠するなどを契機としてふたたび外陰部へ潰瘍性病変を形成するに至ります。
 本人の抵抗力が普通にあれば病変を形成するには至らないのですが、いったん抵抗力を落とすととたんに発症するわけで、この他にもステロイド剤により治療をする、糖尿病を持っている、抗ガン剤により治療をするなどでもヘルペス再発が起こります。初感染と違い、再発の場合には症状は比較的軽度であり、病変も小さく疼痛も少ない場合が多いようですが、このようにして再発が何度も繰り返すようになるのがヘルペスのやっかいな一面なのです。
 なお、2型の単純ヘルペスウイルスは主に外陰部にのみ感染を起こすもので、口唇や顔などには感染を起こさないと言われています。
 しかし、外陰ヘルペスには1型によって起こるものもあることがまれながらあることも知られており、こちらは口唇や顔面にも潰瘍病変を起こしますので、性器への口唇の接触には注意をするに越したことはないようです。

 妊娠中にヘルペス感染した場合ですが、母体内にいる間に胎児に感染する(=胎盤を介して感染する)ことはまれで、だいたいは出産時に産道で感染するものです。この場合胎児は新生児ヘルペスの形で発症し、通常産後1週間以内に症状が現れます。全身型、中枢神経型、皮膚型の病型がありまずが、全身型はほとんどすべて死亡、中枢神経型は重大な障害を残すことが多く、この2型で全体の80%を占めていることから、妊娠中にヘルペス感染が見つかった場合は帝王切開にて分娩するのが普通です。
 

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