レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

5.血液型不適合妊娠って?

 

 Rh(-)の血液型の女性がRh(+)の胎児を妊娠した場合に問題となるもので、何らかの原因により胎児血が母体側に紛れ込んでしまうことが原因で起こるものです。胎盤に関する何らかの異常(常位胎盤早期剥離、梅毒など胎盤への感染症、前置胎盤での出血など )、流産や人工妊娠中絶、羊水穿刺などが不適合妊娠を起こす原因として考えられるものです。
 血液型不適合妊娠としてはこのRh型不適合がもっとも問題となりますが、ABO式血液型不適合も当然のことながら存在します。しかし、Rh型とは異なり血液型抗原(A,B)に対する抗体は自然に存在するため、不適合の場合には早期に溶血を起こすこと、およびもし不適合が起こったとしてもRh型不適合に比べると非常に症状が弱いことから、あまり臨床的には問題にならないことが多いものです。
 従って、ここではRh不適合妊娠の場合に限ってお話をいたします。

 

●Rh型血液について

 ヒトの赤血球は、その細胞表面にある抗原の種類によりいくつかのタイプに分けられることが知られており、そのタイプの分け方によってABO式、Rh式、MN式などの分類がなされています。
 このうち、Rh式の血液型はRh(+)とRh(-)とに分けられますが、Rh血液型を決定する因子であるD因子を用いての表現でいうとRH(+)はDDとDd、Rh(-)はddとなります。
 よって、Rh(-)の母親がRh(+)の子供を持つ可能性は、夫がRh(+)の場合25%、Rh(-)の場合は0%ということになります。(下のイラスト参照)

 

 

●抗体の形成

 まず、「抗体」の形成に関するお話からいたしましょう。
 下のイラストを見ながら読み進めて下さい。

 

    

 体外から異物が侵入すると、それを認識し攻撃して自らを守ろうとする働きがあり、これを免疫と呼びます。免疫機構はイラストのように、まずマクロファージという体内をパトロールしている細胞が異物を発見し捕食することから始まります。
 マクロファージは異物を捕らえると、この外敵の特徴(細胞の表面にある「抗原」と呼ばれる糖やタンパク、脂質などで作られた目印)を認識し、それをリンパ球に伝達します。この情報をもとにして、リンパ球はこの敵に対する兵隊(「抗体」と呼ばれます)を大量に産生し、この兵隊が敵を攻撃する形で身を守ろうとします。こうして起こる外敵と兵隊の戦争を「抗原抗体反応」と呼びます。
 Rh不適合妊娠に当てはめると、抗原は胎児の赤血球であり、身を守るために兵隊(抗体)を産生するのが母体ということになります。

 

●胎児溶血性疾患

 胎児は胎盤を通して母体から栄養分や酸素の供給を受け、老廃物を母体血側へ送って母体に排除してもらっています。しかし、母体血と胎児血は直接混じり合うことは決してなく、絨毛膜というバリアを通して栄養分や酸素のやり取りを行っています。
 もし何らかの原因により、母体血と胎児血を隔てるバリアとしての絨毛膜に破綻が起こって、胎児のRh(+)の赤血球がRh(-)の母体内へ紛れ込んでしまうと、母体は上記のような機構により胎児赤血球に対する抗体を産生してこれを排除しようとしますが、この抗体は絨毛膜によるバリアを通過することができるために容易に胎児側へ移行してしまいます。
 すると・・・?
 胎児の赤血球はこの抗体による攻撃をモロに受けることとなり、胎児赤血球は次々と破壊(これを溶血といいます)されて、貧血を起こすことになります。
 このような病態を胎児溶血性疾患と呼び、以前胎児赤芽球症と呼ばれたものはこれと同義のものです。
 症状としては、出生時の重症貧血のほか、胎児水腫(全身に浮腫があらわれます)、重症黄疸、肝臓腫大などが現れ、放置すれば新生児死亡ないしは胎児死亡に至ります。
 治療には交換輸血が有効となります。

 

  

●出産後の注射

 問題なく通常の分娩にまで至った場合でも、次回の妊娠時に抗体を産生することがないように、出産後に抗Dヒト免疫グロブリン注射を接種します。通常、分娩後72時間以内に行うようにします。
 なお、この抗Dヒト免疫グロブリン注射は血液製剤ですが、薬害エイズ事件で問題となった非加熱製剤には属しませんのでご安心を。