レディースホームFAQG.子宮筋腫に関するもの編

8.子宮を全摘したらどうなるのでしょうか?

 

 子宮の全摘出術は、子宮筋腫、子宮癌や卵巣癌、子宮内膜症(特に子宮腺筋症)などの疾患に対して行う手術で、以下の術式があります。
   1.単純子宮全摘術(腹式、膣式)
   2.膣上部切断術(膣上部子宮摘出術)
   3.広汎子宮全摘術(含・准広汎、亜広汎、超広汎)
 異なるのは3.に関して子宮とともに卵巣や卵管、リンパ節を摘出するかどうかと、2.に関して子宮の出口部分を残すかどうか、という点で、このうち2.については厳密に言えば子宮を全摘出するわけではありませんから「全摘したら?」という部分には当てはまらないことになるのですが、子宮の大部分を摘出することには変わらないので一緒にお話をしたいと思います。

 

●子宮摘出後の膣の断端

    

 イラストは、単純子宮全摘術を簡単に模式的に描いたものです。
 これを見てわかるように、子宮は膣の方へ一部出口を覗かせている形になっていますから、子宮を摘出すると膣の一番奥の部分に穴があくことになります。これをこのままにしておくわけにはいきませんから、通常は体内で溶けて吸収される糸(吸収糸)でイラストのように縫合します。
 このため、術後から、糸が完全に溶けて傷がしっかりと癒えるまでの間は、おりものに多少の血が混じってもおかしくはないことになります。
 

 

●子宮摘出後の骨盤の中は?

 また、子宮を摘出した後のお腹の中は、子宮がなくなったスペースに腸が動いて来るだけで、決して空洞ができてしまうわけではありません。例えて言えば、骨盤はお椀のような形をしていて子宮はその底の部分からお椀の中に向かって突出しているようなものですから、この突起がなくなってお椀本来の形に戻るようなものなのです。
右のイラストを参照してもらうとよりわかりやすいかもしれませんね。

 

●卵巣が残っている場合、卵巣の状態は?

 さて、卵巣を摘出した場合は後述するとして、卵巣が残っている方はいったい卵巣はどうなっているのかが気になるものと思います。
 卵巣は、もともと二つのじん帯、「卵巣固有じん帯(固有卵巣索)」と「骨盤漏斗じん帯(卵巣提索)」の二つのじん帯によって支えられており、子宮を摘出する場合はこのうち卵巣固有じん帯を切断することになります。したがって子宮を摘出した後は、もう一方の骨盤漏斗じん帯で支えられることになります。骨盤漏斗じん帯のもう一端は仙骨に付着していますから、このじん帯によって骨盤で支えられることになりますし、また卵巣への血管、リンパ管などは卵巣提索内にありますから栄養も確保された状態にあります。
 下のイラストを参照するとわかりやすいかもしれません。

 
 

 

●ホルモンバランスは崩れるのか?

 ところで、最も気になるのはホルモンの状態がどうなるのだろう?ということだと思います。
 良く、子宮を全摘するとホルモンバランスが崩れて更年期症状が出る、という話を耳にすることがあるのではないかと思いますが、これは間違いです。確かに、子宮全摘をした後に更年期症状を訴える方が多くいらっしゃいますが、これは、手術を受ける年齢がだいたい40〜50歳代であり、手術を受けなくても更年期症状が出てもおかしくはない年齢であること、そして手術自体が更年期症状を起こすに足るストレスとなりうることが原因であることによるものと考えられます。
 実際、子宮からは一切ホルモンの分泌はありませんので理論的にも子宮を取ることでホルモンバランスが崩れるはずはありません。ホルモンの分泌は卵巣からのみ(他、副腎から少しだけ)起こるものであり、よって卵巣を摘出しない限りはホルモンバランスが崩れることはないはずなのです。

 ということは、卵巣を片方ないしは両方摘出した場合は?
 この場合は、ホルモンバランスを崩す可能性があることになりますね。
 子宮癌、卵巣癌などの悪性疾患では子宮と両側の卵巣を一緒に摘出するのが普通ですが、もしまだきちんと生理が来ている状態で両側の卵巣を摘出してしまえば、術後は急激に更年期症状を起こしてくる可能性があることになります。したがってこのようなケースではしばしばホルモンの補充が必要になります。
 更年期を過ぎてから両側の卵巣を摘出してもほとんど身体に変化は起こらないのが普通ですが、更年期前ではむしろホルモン欠落症状(=更年期症状)が起こる方が普通であるといえるでしょう。

 では片方だけ卵巣を摘出した場合はどうでしょう?
 この場合は、実は子宮全摘だけで卵巣を摘出しない場合とあまり変わりがないのが普通なのです。卵巣は、片方だけ摘出したとしても、もう一方の卵巣が失われた卵巣の代役を務めるようになりますから、ホルモン動態にはあまり変化を来さないものなのです。
 とはいえ、前述のように更年期近くになって手術というストレスを受けることによる影響は、片方だけでも卵巣を摘出した方により現れやすい傾向にあることは否めないかもしれません。

 ちなみに、ホルモン欠落症状としては以下のような症状があげられます。

顔のほてり、のぼせ感、動悸、異常発汗、時に冷え性、胸部苦悶感、呼吸ひっ迫感、嘔気・嘔吐、むくみ、食欲の変化、頭痛、肩や首のこり、背中の張り、めまい、耳鳴り、不眠、眠りが浅い、夜中に一度目が覚めてしまうと眠れなくなる、いらいらする、焦燥感、寂しいキモチになる、ヒステリー気味になる、腰痛、関節痛、筋肉痛、易疲労感、やる気が失せる、動くのがおっくうになる、性欲の減少(あるいは欠如)、性器の乾燥感・萎縮感、手足のしびれ感、知覚過敏、虫がはうような違和感、おりものの異常
      などなど・・・

 

●術後の生活については?

 それぞれに関して、箇条書きにしておきます。
 通常は子宮全摘術後約2週間は入院、その後退院となりますが、術後の状態は個人差がありますので以下に記してあるのはあくまで「一般的なもの」と考えてください。

 

 
家事
退院後数日後から、軽い労作のものから。簡単な炊事、洗濯程度から始めて、様子を見ながら掃除などを行うようにすること。
仕事
軽い労作(事務職等)なら、術後3〜4週間後から。比較的体力を必要とする仕事(重いものを持つ、立ちっぱなし、歩き続ける等)では術後1ヶ月半〜2ヶ月後から。ただし体調を良く見た上で。また、通勤に時間がかかる場合はそれも「体力を要するもの」と考えておくこと。
旅行
術後1ヶ月半〜2ヶ月後以降に。
車の運転
術後1ヶ月以上経ってから。ただし、最初は近所の買い物程度からのこと。遠距離(1時間以上の運転)はなるべく近距離の運転に慣れてから。
入浴
通常は、術後1ヶ月以上を経過してから。退院後初めての診察を受けて、異常がない場合にはその後からでも良い。
性生活
通常は術後1ヶ月以上経過してから。ただし、膣断端の縫合部分の吸収糸が完全に溶けるまでにはおおよそ2ヶ月近くを要するため、それまでの間は性交後に出血を起こす可能性があるので注意を。
運動
ストレッチ程度にしても、術後2ヶ月以上を経過してから。本格的スポーツは、できれば3ヶ月以上経ってからが好ましい。